夫婦の死亡保障を考える際、保険ショップや営業担当者から「夫は3000万円、妻はその半分の1500万円にしておきましょう」といった提案を受けたことはありませんか?あるいは「うちは共働きで二人とも収入があるから、お互いに保険なんていらないよね」と、なんとなく判断してしまってはいないでしょうか。
実は、夫婦の働き方や子どもの人数・年齢、そして住宅ローンの組み方によって、それぞれに必要な保障額は劇的に変わります。「平均的な額」や「一般的な相場」というものは、あなたの家庭にとっては何の意味も持ちません。大切なのは、あなたの家庭の収支に基づいたオーダーメイドの数字です。
この記事では、公的保障(遺族年金)と団体信用生命保険(団信)という強力な制度をベースにし、あなたの家庭にとって本当に必要な「夫婦それぞれの保障額」を導き出す手順をわかりやすく解説します。無駄な保険料を払わず、かつ万が一の時に家族を守れる適正な金額を見つけ出しましょう。
夫婦の死亡保障を決める「正しい順番」
死亡保障を検討するとき、いきなり「どこの保険会社のどの商品がいいか」を探し始めるのは間違いです。家を建てる時に、土地の広さも予算も決まっていないのにカーテンを選び始めるようなものです。
保険はあくまで「最後の手段」です。まずは国や会社が用意してくれている制度を確認し、それでも足りない部分だけを民間の保険で補うのが最も合理的な設計です。以下の3つの手順で考えていきましょう。
手順1:まずは公的保障(遺族年金)の額を知る
日本に住んでいる私たちは、すでに最強の保険に入っています。それが「公的年金制度」です。万が一、生計を維持している人が亡くなった場合、遺された家族には「遺族年金」が支払われます。この金額を知らずに保険に入るのは、冷蔵庫の中身を見ずに買い物に行くのと同じで、無駄買いの原因になります。
遺族年金には大きく分けて2つの種類があります。
- 遺族基礎年金:国民年金加入者(自営業など)も会社員も対象。18歳未満の子どもがいる場合に支給されます。
- 遺族厚生年金:会社員や公務員が対象。遺族基礎年金に上乗せして支給されます。
会社員の夫が亡くなり、妻と小さい子どもが遺されたケースであれば、この2階建ての年金により、月額10万円〜15万円程度(収入や加入期間による)が国から支給されることが多いです。まずは「自分たちには毎月これくらいのベース収入が入ってくる」ということを前提に保障を考えましょう。
手順2:住宅ローンの有無と団信を確認する
次に確認すべきは住居費です。もしあなたが持ち家で住宅ローンを組んでいる場合、多くの方は「団体信用生命保険(団信)」に加入しているはずです。
団信とは、ローンの契約者が亡くなった場合、保険金でローンの残債が完済される仕組みです。つまり、以後の住宅ローン返済はゼロになります。
毎月の生活費の中で、住居費が占める割合は非常に大きいはずです。例えば月30万円の生活費のうち、10万円が住宅ローンだったとしましょう。世帯主が亡くなれば、遺族が必要な生活費は30万円から10万円引かれた「20万円(+管理費や固定資産税)」で済むことになります。
賃貸住宅にお住まいの場合は、家賃の支払いが続くため、この「住居費が消える」効果はありません。持ち家か賃貸かで、必要な死亡保障額は数千万円単位で変わってくるのです。
手順3:それでも足りない「不足分」だけを保険で補う
公的保障(遺族年金)で入ってくるお金と、団信によって消える支出(住宅ローン)を整理したら、いよいよ計算です。
計算式は非常にシンプルです。
【遺族が必要な生活費】 - 【遺族年金 + 遺族自身の収入 + 既存の貯蓄】 = 保険で準備すべき金額
この計算をして、もし結果がゼロやマイナスになるなら、極端な話、死亡保険は不要です。逆に、結果がプラス(例えば毎月5万円足りない、など)であれば、その「毎月5万円」をカバーできるだけの保険に入ればよいのです。
多くの方が、この引き算をせずに「なんとなく3000万円」のような高額な保険に入ってしまい、毎月高い保険料を払い続けています。「不足分だけを補う」という視点を持つだけで、保険料は劇的に安くなります。
【ケース別】夫と妻、それぞれの必要保障額の考え方
家庭の状況によって、リスクの大きさは異なります。ここでは代表的な3つのパターンについて、保障の考え方を解説します。
共働き世帯の場合(お互いに収入がある)
現代の子育て世帯で最も多いのがこのパターンです。夫婦ともに正社員などで安定した収入がある場合、片方が亡くなっても「即座に生活が破綻する」というリスクは低くなります。
例えば、夫が亡くなった場合でも、妻の収入と夫の遺族年金(厚生年金含む)、そして団信による住居費免除があれば、日常の生活費は十分にまかなえるケースが多々あります。この場合、夫に高額な死亡保障は不要かもしれません。
ただし、注意が必要なのは「教育費」と「生活水準の維持」です。世帯収入が合算で成り立っていた場合、片方の収入がなくなると、今まで通りの旅行や習い事、私立学校への進学などは難しくなるかもしれません。
共働き世帯の保険設計は、「最低限の生活を守る」ための保険というよりは、「現在の子どもの選択肢や生活水準をどこまで守りたいか」という価値観によって必要額が決まります。お互いに「毎月あと5万〜10万円あれば、今の生活を変えずに済む」というラインで、収入保障保険などを検討するのがおすすめです。
片働き世帯の場合(会社員夫・専業主婦妻)
夫が会社員で妻が専業主婦(あるいは扶養内パート)の場合、夫の死亡保障は最も手厚くする必要があります。夫の収入が途絶えると、遺族年金だけでは生活費が不足する可能性が高いためです。
このケースでは、以下のように考えます。
- 夫の保障:生活費の不足分をガッチリとカバーする。子どもが独立するまでの期間、毎月10万〜20万円程度の給付が受けられる収入保障保険が適しています。
- 妻の保障:専業主婦の妻が亡くなった場合、収入は減りませんが、「家事・育児の担い手」がいなくなる影響は甚大です。ここについては後述します。
自営業・フリーランスが含まれる場合
最も注意が必要なのが、夫婦のどちらか、あるいは両方が自営業・フリーランスの場合です。国民年金のみの加入者は「遺族厚生年金」がありません。「遺族基礎年金」のみとなります。
会社員に比べて遺族年金の受給額が少なくなるため、その分を民間の保険で自助努力として補う必要があります。また、会社員にあるような「傷病手当金」などの就業不能保障もないため、死亡保障と合わせて「働けなくなった時のリスク」も深刻です。
自営業世帯の場合は、会社員世帯よりも多めの死亡保障を設定する必要があります。具体的には、会社員世帯よりも月額で5万〜10万円程度多く見積もっておくのが安全です。
妻(ママ)の死亡保障は見落とされがちなので注意
保険の相談現場でよくあるのが、「夫の保険はしっかり考えているけれど、妻の保険は適当」というケースです。しかし、特に小さなお子さんがいる家庭では、妻(母親)のリスク管理は非常に重要です。
遺族年金の受給額に男女差がある現実
あまり知られていませんが、遺族厚生年金の受給要件には男女差があります。
妻が亡くなった場合、遺された夫が遺族厚生年金を受け取るには「妻の死亡時に夫が55歳以上であること」などの厳しい要件があります(※遺族基礎年金は、子のある配偶者であれば夫でも受け取れます)。
つまり、共働きで妻にもしっかりとした厚生年金の加入履歴があったとしても、妻が亡くなった時に夫が若ければ、夫は遺族厚生年金を受け取れない可能性が高いのです。「妻の収入も家計の柱」と考えていた場合、公的保障が夫死亡時よりも薄くなることを計算に入れておく必要があります。
家事・育児のアウトソース費用をどう見積もるか
専業主婦やパート勤務の妻が亡くなった場合、世帯収入の減少額はそれほど大きくないかもしれません。しかし、これまで妻が担っていた「家事・育児」を誰がやるのかという問題が直撃します。
夫が仕事を続けながらワンオペ育児をするのは現実的に困難な場合が多く、以下のような費用が発生します。
- 保育園の延長保育料
- ベビーシッター代
- 家事代行サービス費用
- 外食や惣菜の増加による食費アップ
これらのコストは月数万円〜10万円近くになることもあります。「収入がないから保障はいらない」ではなく、「妻の労働力を外部委託した場合の費用」を保障額として設定しておくのが賢明です。月額5万〜10万円程度の収入保障保険に入っておくことで、夫は仕事を辞めずに、アウトソーシングを活用して生活を回すことができます。
注意点・よくある誤解
最後に、死亡保障額を計算する上で陥りやすい罠や誤解について解説します。
「夫婦ペアローン」なのに団信を片方しか重視していない
最近多い「夫婦ペアローン」で住宅を購入している場合、注意が必要です。ペアローンの団信は、基本的に「亡くなった本人の持ち分のみ」が弁済されます。
例えば4000万円のローンを夫2000万・妻2000万で組んでいたとします。夫が亡くなった場合、夫名義の2000万円は団信で消えますが、妻名義の2000万円のローンはそのまま残ります。一方で、世帯収入は夫の分が丸ごとなくなります。
夫単独ローンであれば全額消えていた住居費が、ペアローンの場合は半分残ってしまうのです。ペアローンの場合は、お互いの死亡保障額に「残るローン返済分」を上乗せして計算する必要があります。
住宅費(家賃・ローン)を二重計上して保険に入りすぎる
必要保障額を計算する際、「現在の生活費」をそのまま将来の必要額として使ってしまうミスがあります。
持ち家(団信あり)の方が亡くなった場合、以後の住宅ローン返済は不要になります。したがって、遺族が必要な生活費を計算する際は、現在の生活費から「住宅ローン返済額」を差し引いた金額ベースで考えなければなりません。
ここを差し引かずに計算すると、必要以上に高額な保障額が算出されてしまい、無駄な保険料を払うことになります。必ず「夫がいない場合の生活費(住居費抜き)」でシミュレーションしましょう。
更新型の保険で保険料が将来跳ね上がるリスク
必要な保障額が算出できたら、それをどのような保険商品で準備するかが重要です。ここで「定期保険(更新型)」を選んでしまうと、10年ごとの更新のたびに保険料が上がっていき、教育費がかかるピーク時に保険料の支払いが苦しくなるリスクがあります。
子育て世帯の死亡保障には、時間の経過とともに必要保障額が減っていくことに合わせて、受け取る保険金も徐々に減っていく「収入保障保険」が最も合理的です。保険料が一定で安く、無駄がありません。
まとめ
夫婦の死亡保障額は、「夫だから厚く、妻だから薄く」といった固定観念で決めるものではありません。また、不安だからといって、勧められるがままに大きな保障を持つ必要もありません。
重要なのは、以下の要素を冷静に数字に落とし込むことです。
- 遺族年金はいくらもらえるか?(自営業か会社員か)
- 住居費はどうなるか?(持ち家か賃貸か、ペアローンか)
- 遺された配偶者はどのくらい稼げるか?
- 子育てや家事のサポート費用は必要か?
これらを計算し、「足りない部分」だけを保険で補うのが正解です。家庭によっては「夫厚め・妻薄め」が良い場合もあれば、共働きペアローンのように「夫婦同等」の保障が必要な場合もあります。
保険は「お守り」ではなく、生活を守るための「資金確保の手段」です。イメージではなく具体的な数字と向き合い、あなたの家庭にジャストフィットする保障額を見つけてください。


