子どもが生まれて「万が一のことがあったら、家族はどうなるんだろう?」と不安になり、保険ショップやネット検索で情報を集め始めたあなた。もし、いきなり「死亡保険金3,000万円」といったパッケージ商品や、保険会社のパンフレットを見ているのなら、少しだけ待ってください。
実は、生命保険の金額を決めるために、最初にやるべきことは保険商品を見ることではありません。もっとも大切なのは、計算の「順番」を知ることです。
日本に住んでいる私たちは、すでに国や勤務先から手厚い保障を約束されています。それらを確認せずに民間保険に入ってしまうことは、冷蔵庫の中身を確認せずにスーパーで大量の食材を買い込むようなものです。結果として、本来なら家族との思い出作りや教育費に回せるはずのお金を、過剰な保険料として払い続けてしまうことになりかねません。
この記事では、子育て世帯が絶対に知っておくべき「公的保障から考える正しい引き算の手順」を、1ページで完結に解説します。読み終える頃には、あなたの家庭に必要な保障額が明確になり、自信を持って最適な選択ができるようになっているはずです。
死亡保障設計の全体像(正しい3ステップ)
死亡保障を考える際、多くの人が「自分に何かあったら、家族にいくら残せばいいか?」という総額から考えようとします。しかし、その総額をすべて民間の保険会社で準備する必要はありません。
死亡保障は、よく「3階建ての建物」に例えられます。このイメージを持つだけで、保険選びの失敗は劇的に減ります。
1階部分:公的保障(国からの遺族年金)
まず土台となる1階部分は、国が用意している「遺族年金」です。私たちは毎月、給与から社会保険料(厚生年金や国民年金)を引かれていますが、これは老後のためだけではありません。万が一の時に遺族へ支払われる保険料も兼ねているのです。この1階部分は、私たちが思っている以上に頑丈で、生活費の大きな部分をカバーしてくれます。
2階部分:住居・勤務先の保障(団信・死亡退職金)
2階部分は、住まいや勤め先に関連する保障です。もし持ち家で住宅ローンを組んでいれば「団体信用生命保険(団信)」により、以後のローン返済がなくなります。また、会社員であれば勤務先から「死亡退職金」や「弔慰金」が出るケースも少なくありません。これらは、残された家族の生活費負担を大幅に軽くしてくれます。
3階部分:民間保険(最後に残った不足分)
そして最後の3階部分が、「民間の生命保険」です。1階と2階を積み上げても、どうしても足りない部分(将来の教育費や、生活費の不足分など)だけを、民間の保険商品で補います。
つまり、保険選びの正しい手順とは、「必要な生活費」から「1階」と「2階」を引き算し、残った金額だけを保険で買うという作業なのです。この手順を飛ばして、いきなり3階部分を大きく作ろうとするから、保険料が高額になってしまうのです。
ステップ1:まずは「遺族年金」がいくら貰えるか知る
それでは、具体的な計算のステップに入りましょう。まずは1階部分、国からの「遺族年金」です。受け取れる金額は、働き方(職業)と家族構成によって大きく異なります。
自営業(国民年金)と会社員(厚生年金)の決定的な差
まず確認すべきは、世帯主の働き方です。ここには非常に大きな差が存在します。
- 会社員・公務員(厚生年金加入者)
「遺族基礎年金」に加えて、給与額に応じた「遺族厚生年金」が上乗せされます。これは非常に手厚い保障で、子どもが18歳を過ぎた後も、配偶者に対して一定の給付が続くケース(中高齢寡婦加算など)があります。会社員の方は、すでにかなり強力な保険に入っていると考えてください。 - 自営業・フリーランス(国民年金のみ)
基本的に「遺族基礎年金」のみとなります。遺族基礎年金は「子どもがいる期間」しか支給されません。子どもが18歳になって独立すると、公的な遺族保障はバッサリとなくなってしまいます。そのため、自営業の方は会社員の方に比べて、民間の保険(3階部分)を厚く準備する必要があります。
子どもの人数と年齢による加算額
遺族基礎年金のベースとなる金額は決まっていますが、そこに「子の加算」がつきます。2020年代の目安で言うと、基本額にプラスして、子ども1人目・2人目はそれぞれ約22万円程度が年額として加算されます。
例えば、会社員のご主人が亡くなり、専業主婦の妻と小さなお子さん2人が残された場合、遺族基礎年金と遺族厚生年金を合わせると、月額10数万円〜それ以上の収入が確保できるケースも珍しくありません。「国からは何ももらえない」と思い込まず、まずはねんきん定期便などを参考に、概算を把握することが大切です。
ステップ2:住居費(団信)と勤務先の保障を確認する
次に確認するのは、生活費の中で最も大きな割合を占める「住居費」と、会社からの臨時収入です。
持ち家なら「住居費」の保障はほぼ不要になる理由
もしあなたがマイホームを購入していて住宅ローンを返済中なら、多くの場合「団体信用生命保険(団信)」に加入しているはずです。これは、契約者が亡くなった(または所定の高度障害状態になった)際に、保険会社が残りのローンを全額返済してくれる仕組みです。
つまり、残された家族にとって「翌月からの家賃(ローン返済)は0円」になります。毎月の住居費が10万円、15万円とかかっている場合、その支出が丸ごと消えるわけです。そのため、持ち家世帯が必要な死亡保障額は、賃貸世帯に比べて圧倒的に少なくなります。ここで「今の生活費が月30万円だから、30万円分の保障が必要」と単純計算してしまうと、過剰な保険に入ることになります。
賃貸世帯が考慮すべき家賃の保障
一方で、賃貸住宅に住んでいる場合は注意が必要です。大黒柱に万が一のことがあっても、家賃の支払いは毎月続きます。遺族年金だけで家賃と生活費を賄うのは難しいケースが多いでしょう。
賃貸派の方は、「今の家賃を払い続けられるだけの保障」を上乗せするか、あるいは「万が一の時は実家に戻る」「公営住宅など家賃の安いところへ引っ越す」といったライフプランの変更をあらかじめ想定しておく必要があります。
意外と見落とす「死亡退職金」や「弔慰金」
お勤めの企業の福利厚生規定を確認したことはありますか? 多くの企業では、従業員が亡くなった際に「死亡退職金」や「弔慰金」が支給されます。金額は勤続年数や役職によりますが、数百万円、場合によっては一千万円単位になることもあります。
また、企業型の団体定期保険(グループ保険)に加入している場合もあります。これらは民間の保険ですが、給与天引きで割安に入っていることが多く、見落としがちです。これらが「まとまった現金」として入ってくるのであれば、その分だけ、自分で加入する民間保険を減らすことができます。
ステップ3:不足分を計算し、最適な保険を選ぶ
1階(公的保障)と2階(住居・勤務先保障)を確認したら、いよいよ3階部分の設計です。ここで初めて「民間保険」の出番となります。
必要保障額の計算式(残された家族の支出 - 公的・その他収入)
あなたの家庭に必要な保障額(必要保障額)は、以下のシンプルな引き算で求められます。
【必要保障額の計算式】
(将来の生活費 + 教育費 + 住居費 + 予備費)
-(遺族年金 + 遺族の労働収入 + 死亡退職金・貯蓄)
= 民間保険で備えるべき金額
ポイントは「遺族の労働収入」を含めることです。もしパートナーに万が一のことがあっても、残されたあなたが全く働かないというケースは少ないかもしれません。パートタイムや正社員として得る収入も、立派な保障の一部です。
この計算をして、「あれ? マイナスになった(お金が余る)」というご家庭も実は少なくありません。その場合は、高額な死亡保険は不要で、葬儀費用程度の整理資金があれば十分ということになります。
子育て世帯には「四角い保険」より「三角の保険(収入保障保険)」
計算の結果、例えば「2,000万円足りない」と分かったとします。この時、3,000万円の定期保険(10年更新など)に入るのは少しもったいない選択です。
なぜなら、必要保障額は時が経つにつれて減っていくからです。子どもが成長すれば、独立までの教育費や生活費の総額は年々少なくなります。今日必要な3,000万円は、10年後には1,500万円で済むかもしれません。
そこで子育て世帯に圧倒的におすすめなのが、「収入保障保険」です。これは、万が一の時に「毎月15万円」といった形でお給料のように保険金が受け取れるタイプです。時間の経過とともに受取総額が減っていく(三角形の形をしている)ため、保険料が無駄なく、非常に割安に設定されています。
四角い形の「定期保険」でずっと同額を掛け続けるよりも、必要な分だけをカバーする「三角の保険」を選ぶのが、賢いパパ・ママの常識になりつつあります。
なぜ「掛け捨て」を選ぶべきなのか
「掛け捨てはもったいない」と感じるかもしれません。しかし、子育て期間中の死亡保障は、数千万円単位という大きな金額が必要になる「期間限定のリスク」です。これを貯蓄型の保険(終身保険など)で賄おうとすると、月々の保険料が数万円〜十数万円と莫大な金額になってしまいます。
保険料が高すぎて今の生活が苦しくなったり、教育費の貯金ができなくなったりしては本末転倒です。「安い保険料で、大きな保障を買う」。このコストパフォーマンスを実現できるのは、掛け捨て型の保険だけです。浮いたお金をNISAやiDeCoなどで運用したほうが、結果的に資産形成の効率は良くなるケースがほとんどです。
ケース別シミュレーション(共働き・片働き)
家庭の状況によって、保障の考え方は少し変わります。代表的な2つのケースを見てみましょう。
ケースA:共働き世帯(お互いの収入減をどうカバーするか)
夫婦ともに正社員でバリバリ働いている場合、どちらか一方が亡くなっても、残された配偶者の収入と遺族年金で、日々の生活費は賄えることが多いでしょう。特に持ち家で団信に入っていれば、経済的な危機に陥るリスクは低めです。
この場合、心配すべきは「生活の質の変化」と「教育費」です。例えば、ワンオペ育児になることで残業ができず収入が減る可能性や、ベビーシッターや家事代行が必要になるコストを考慮しましょう。保障額は「生活費の全額」ではなく、「パートナーの収入がなくなることによる家計の穴埋め」+「子どもの大学進学費用の確保」に絞って設定すると、保険料を抑えられます。
ケースB:片働き世帯(大黒柱の保障を手厚くする理由)
夫が会社員、妻が専業主婦(または扶養内パート)という場合、夫の死亡保障は非常に重要です。大黒柱の収入が途絶えると、遺族年金があるとはいえ、生活水準を維持するのは困難になります。妻がすぐに正社員として復帰できる保証もありません。
このケースでは、収入保障保険を活用し、「子どもが独立するまでの期間」を重点的に、手厚くカバーする必要があります。月額15万〜20万円程度の受け取り設定に加え、当面の生活立て直し資金として数百万円の一時金が出る定期保険を組み合わせるなど、慎重な設計が求められます。
注意点・よくある誤解
最後に、多くの人が陥りがちな失敗例をお伝えしておきます。
貯蓄型保険(終身保険)で死亡保障を確保しようとしない
「どうせ払うなら戻ってくる方がいい」と、終身保険で死亡保障3,000万円などを契約しようとするのは避けてください。先述の通り、保険料が跳ね上がります。
終身保険は「一生涯変わらない保障」ですが、子育て世帯に必要なのは「今が一番高く、将来に向けて減っていく保障」です。ニーズと商品の性質が合っていません。死亡保障は「掛け捨て」、貯蓄は「投資や預金」。この2つは明確に分けて管理するのが、家計防衛の鉄則です。
子どもの独立後も高額な保障を残し続けてしまうミス
子どもが大学を卒業して独立すれば、親の責任としての高額な死亡保障は不要になります。しかし、一度加入した保険を「なんとなく不安だから」と見直さずに続けてしまう人がいます。
老後に必要なのは、死亡保障よりも「医療・介護」や「老後生活費」への備えです。ライフステージが変わるタイミング(子どもが成人した、住宅ローンが終わった等)で、必ず保険の断捨離を行いましょう。
まとめ:正しい手順で計算すれば保険料は安くなる
死亡保障の設計について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。大切なのは、いきなり保険商品を買うことではなく、以下の3ステップで「引き算」をすることです。
- 公的保障(遺族年金)を知る
- 住居・勤務先の保障(団信・退職金)を確認する
- 残った不足分だけを、掛け捨ての「収入保障保険」などで補う
この手順を踏めば、「なんとなく3,000万円」といった根拠のない契約を避けられ、毎月の保険料を数千円単位で節約できる可能性があります。浮いたお金で家族旅行に行ったり、お子さんの習い事を増やしたりするほうが、家族の幸せに繋がるかもしれません。
ぜひ一度、ねんきん定期便や会社の就業規則を手元に置いて、あなたの家庭の「本当の必要額」を計算してみてください。
我が家の死亡保障、足りていますか?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
死亡保障について理解が深まる一方で、
「では、我が家の場合はいくら必要なのだろう?」
と感じた方も多いのではないでしょうか。
死亡保障は、人それぞれ家族構成・収入・住まいによって大きく変わります。
平均額や他人の事例を当てはめるだけでは、
保障が足りなかったり、逆に保険料を払いすぎてしまう原因になります。
そこで次の記事では、
子育て世帯が自宅で・無料でできる「死亡保障セルフチェック」
の具体的な手順を、専門知識がなくても分かるようにまとめています。
営業を受けたり、保険を勧められることはありません。
まずは現状を整理するための参考資料として、
一度目を通してみてください。



