「万が一の時、残された家族にお金はいくら必要なんだろう?」
そう考えて保険の窓口に行くと、数千万円の死亡保障を勧められ、月々の保険料の高さに驚いた経験はありませんか?実は、日本には世界的に見ても手厚い公的保障である「遺族年金」という制度があります。
この遺族年金が「実際にいくらもらえるのか」を知らずに民間の生命保険に加入するのは、冷蔵庫の中身を確認せずにスーパーで大量の食材を買い込むようなものです。無駄な保険料を払いすぎないためには、まず国からもらえる金額を把握することがスタートラインです。
今回は、生命保険に詳しくない子育て世帯のパパ・ママに向けて、職業や家族構成で大きく変わる遺族年金の受給額シミュレーションや、意外と知られていない「制度の落とし穴」について、専門用語を極力使わずに解説します。
遺族年金の基本「2階建て構造」を5分で理解する
日本の年金制度はよく「2階建て」と表現されますが、遺族年金も同じ構造をしています。ここを理解しておかないと、「もらえると思っていたのにもらえなかった」という事態になりかねません。
まずは、あなたの家庭がどの「階」まで保障されているのかを確認しましょう。
全員が対象ではない?「遺族基礎年金」の受給条件
建物の「1階部分」にあたるのが「遺族基礎年金」です。これは、国民年金に加入しているすべての人(自営業、会社員、公務員など)が対象となるベースの保障です。
ただし、誰でももらえるわけではありません。ここには非常に重要な条件があります。
「生計を維持されている『子』がいる配偶者、または『子』」だけが受け取れるのです。
ここで言う「子」とは、原則として「18歳になった年度の3月31日までの子」を指します。つまり、お子さんが高校を卒業するまでの期間しか、この1階部分は支給されません。子供がいない夫婦や、子供がすでに成人している家庭には、この遺族基礎年金は支給されないという点を覚えておいてください。
この制度はあくまで「残された子供の養育」を支援するためのものだからです。
会社員・公務員が優遇される「遺族厚生年金」
次に、建物の「2階部分」にあたるのが「遺族厚生年金」です。これは、会社員や公務員など、厚生年金に加入している人が亡くなった場合に、1階部分に上乗せして支給されます。
この遺族厚生年金の大きな特徴は以下の2点です。
- 子供がいなくても支給されるケースがある(妻への保障が手厚い)
- 一生涯受け取れるケースが多い(子供が成人した後も続く)
遺族基礎年金(1階)が「子供のための期間限定の保障」であるのに対し、遺族厚生年金(2階)は「遺族の生活を支える長期的な保障」と言えます。給与明細で毎月引かれている厚生年金保険料は、将来の老齢年金だけでなく、この万が一の保障のためにも支払っているのです。
自営業(国民年金)と会社員で保障額に天と地ほどの差がある理由
ここで注意が必要なのが、自営業やフリーランスの方です。
自営業の方は、基本的に「1階部分(国民年金)」しか加入していません。つまり、万が一のことがあった場合、受け取れるのは「遺族基礎年金のみ」となります。
一方で、会社員や公務員の方は「1階(遺族基礎年金)+ 2階(遺族厚生年金)」のダブル受給となります(子供がいる期間)。
この差は非常に大きく、民間保険で準備すべき必要保障額も数百万円〜数千万円単位で変わってきます。「会社員は保険がいらない」「自営業は保険に入らなければならない」と極端に言われることがありますが、その根拠はこの公的保障の手厚さの違いにあるのです。
【シミュレーション】実際にいくらもらえる?金額の目安
仕組みが分かったところで、実際にあなたの家庭ではいくらくらいもらえるのか、具体的な数字を見てみましょう。
※以下の金額は2024年度(令和6年度)の数値を基準とした概算です。年収や加入期間によって変動するため、あくまで目安として捉えてください。
モデルケース1:会社員(平均年収)・妻・子2人の場合
まずは、日本の一般的な子育て世帯のケースです。
- 夫:会社員(平均標準報酬額 35万円 ※賞与込み年収420万円程度と仮定)、厚生年金加入期間20年
- 妻:専業主婦または扶養内パート(30代)
- 子:2人(5歳、3歳)
この夫が万が一亡くなった場合、妻が受け取れる遺族年金は以下のようになります。
1. 遺族基礎年金(1階部分)
基本額:約81.6万円
子の加算(第1子):約23.5万円
子の加算(第2子):約23.5万円
小計:年額 約128.6万円(月額 約10.7万円)
2. 遺族厚生年金(2階部分)
報酬比例部分:計算式は複雑ですが、この年収モデルだと年額45万円〜50万円程度が目安となります。
※短期要件(加入期間が300月に満たない場合は300月として計算)が適用されるため、若くして亡くなった場合もある程度の金額が保障されます。
小計:年額 約48万円(月額 約4万円)
【合計受給額】
年額 約176.6万円(月額 約14.7万円)
会社員の場合、子供が18歳になるまでは月額約15万円弱が非課税で振り込まれます。これだけの収入が確保されていれば、生活費のベースとしてはかなり頼りになるはずです。
モデルケース2:自営業・妻・子2人の場合
次に、同じ家族構成で夫が自営業(国民年金のみ)の場合を見てみましょう。
- 夫:自営業(個人事業主)
- 妻:専業主婦(30代)
- 子:2人(5歳、3歳)
1. 遺族基礎年金(1階部分)
会社員の場合と同じ計算になります。
基本額+子の加算(2人分)
合計:年額 約128.6万円(月額 約10.7万円)
2. 遺族厚生年金(2階部分)
なし:0円
【合計受給額】
年額 約128.6万円(月額 約10.7万円)
会社員と比較すると、月額で約4万円、年間で約50万円近く少なくなります。さらに後述しますが、子供が成長した後の保障が会社員よりも圧倒的に薄くなるため、自営業の方はより自助努力(民間の生命保険や貯蓄)での備えが必要不可欠です。
計算式よりも「ねんきん定期便」を確認すべき理由
ここまでの計算はあくまでモデルケースです。正確な「遺族厚生年金」の額は、亡くなった方の「過去の給与額(標準報酬月額)」と「加入期間」によって一人ひとり全く異なります。
自分で計算するのは非常に複雑で骨が折れますが、実は簡単に確認する方法があります。それが、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」です。
ただし、ねんきん定期便に書かれているのは「老後にもらえる年金額」がメインです。遺族年金の正確な見込み額を知りたい場合は、日本年金機構のサイト「ねんきんネット」にログインして試算するのが最も確実です。
ざっくりとした把握で構わない場合は、「今の生活費から、上記のモデルケース(会社員なら月15万円、自営業なら月11万円)を引いた額が、保険で補うべき金額」とイメージしてください。
ここが落とし穴!受給期間と「18歳の壁」
金額の目安が分かったところで、次に気をつけなければならないのが「期間」です。遺族年金は、永遠に同じ金額がもらえるわけではありません。特に子育て世帯にとって最大の分岐点となるのが、子供の成長です。
遺族基礎年金は「子供が18歳になる年度末」で打ち切られる
先ほどのシミュレーションで計算した金額のうち、大きな割合を占めていた「遺族基礎年金(1階部分)」と「子の加算」。これは、子供が高校を卒業する年齢(18歳到達年度の末日)を迎えると、支給が終了します。
例えば、子供が2人の家庭で、上の子が18歳を超えると、まず「第2子の加算分」が減ります。そして下の子も18歳を超えると、「遺族基礎年金すべて(月額約10万円強)」がバッサリなくなります。
この時期は、ちょうど大学進学などで教育費のピークを迎えるタイミングと重なります。「遺族年金があるから大丈夫」と安心していると、一番お金のかかる時期に収入がガクンと減るという事態に陥りかねません。
その後の保障はどうなる?「中高齢寡婦加算」とは
「じゃあ、子供が成人したら妻の収入はゼロになるの?」と不安になるかもしれません。ここで、会社員の妻(遺族厚生年金受給者)には救済措置があります。
夫が会社員だった場合、子供が全員18歳を超えて遺族基礎年金がなくなると、代わりに「中高齢寡婦加算」というものがプラスされます(妻が40歳以上65歳未満などの条件あり)。
金額は年額約61万円(月額約5万円)です。
つまり、会社員の妻の場合、子供の成長後は以下のようになります。
- 子供が18歳まで:遺族基礎年金 + 遺族厚生年金 = 手厚い
- 子供が18歳以降:遺族厚生年金 + 中高齢寡婦加算 = 少し減るが保障は続く
- 妻が65歳以降:自分自身の老齢年金 + 遺族厚生年金の一部
一方で、自営業の妻の場合、この「中高齢寡婦加算」はありません。子供が18歳を超えた時点で、遺族年金による収入は完全にゼロになる可能性があります。この「保障の崖」をどう埋めるかが、保険選びの肝となります。
公的保障だけで生活できる?不足分の考え方
ここまで読んで、「思ったよりもらえる」と感じたでしょうか、それとも「これだけでは足りない」と感じたでしょうか。
結論から言うと、「遺族年金だけで、今の生活水準を維持するのは難しい」というのが現実です。
遺族年金だけでは「現在の生活水準」は維持できない
例えば、現在の手取り月収が35万円の家庭で、夫が亡くなって遺族年金が月15万円入るとします。単純計算でマイナス20万円です。
もちろん、夫の食費や小遣い、被服費などは不要になります。一般的に、大黒柱が亡くなった後の生活費は、現在の生活費の「70%程度」になると言われています。
現在の生活費が30万円だとしたら、その70%は約21万円。遺族年金が15万円なら、毎月6万円が不足する計算になります。
「6万円くらいなら、パートに出ればなんとかなる」と考えるか、「子供が小さいから働きに出るのは難しいので保険でカバーしたい」と考えるか。これが保険設計の分かれ道です。
住宅ローンは「団信」で消えるが、教育費・生活費は残る
持ち家で住宅ローンを組んでいる場合、多くの人は「団体信用生命保険(団信)」に入っています。これにより、夫が亡くなった場合、住宅ローンの残債はゼロになり、住居費の負担は大幅に減ります(管理費や固定資産税は残ります)。
賃貸暮らしの家庭に比べて、持ち家の家庭は「遺族年金だけで生活できる可能性」が高くなります。住居費がかからない分、月15万円の遺族年金と少しのパート収入で十分に暮らせるケースも多いのです。
しかし、忘れてはいけないのが「子供の教育費」です。進学費用だけは、親がいてもいなくても変わりません。遺族年金は日々の生活費(食費や光熱費)を賄うためのものと考え、将来の学費分は別途確保しておく必要があります。
足りない分だけを「収入保障保険」で補うのが正解
遺族年金の仕組みを知ると、民間の生命保険で「3000万円」といった高額な死亡保障を一括で受け取る必要性は、意外と低いことに気づくかもしれません。
必要なのは、「遺族年金だけでは毎月の生活費で足りない数万円」と「将来の学費不足分」です。
この不足分を補うのに最適なのが、お給料のように毎月定額(例:月10万円)を受け取れる「収入保障保険」です。この保険は、時間が経つにつれて(子供が成長するにつれて)受け取れる総額が減っていく「三角形」の保険なので、保険料が非常に割安です。
公的保障(遺族年金)という土台の上に、足りない分だけを「掛け捨て」の収入保障保険で薄く乗せる。これが最もコスパの良い、賢い子育て世帯の保障設計です。
注意点・よくある誤解
最後に、遺族年金をあてにする際に知っておくべき注意点をお伝えします。
妻自身の年収が高いと受給できない(年収850万円の壁)
遺族年金には「生計維持要件」というものがあります。亡くなった方によって生計を維持されていたことが条件ですが、残された配偶者の年収が極端に高い場合、受給できないことがあります。
具体的な基準は、「前年の年収が850万円以上(所得655万5千円以上)」ある場合です。共働きで妻がバリバリ働いていて高収入である場合、夫が亡くなっても遺族年金は支給されない可能性があります。この場合、世帯収入は激減するため、あえて民間保険での備えが必要になるケースもあります。
離婚・再婚した時の受給権の変化
遺族年金を受給中に再婚した場合、遺族年金の受給権は消滅します。
「新しいパートナーと生計を共にするなら、前のパートナーの遺族年金は不要でしょう」という考え方です。これは法律婚だけでなく、事実婚(内縁関係)の場合も同様です。
再婚を考えている場合は、その時点で遺族年金がストップすることを前提に、新しい家庭での経済設計を考える必要があります。なお、子供自身の受給権については複雑な規定があるため、個別の確認が必要です。
まとめ
遺族年金の額を把握して、過不足のない死亡保障準備を
遺族年金は、私たちが思っている以上に頼りになる制度です。特に会社員の方であれば、月十数万円の保障が確保されています。
- まずは職業(会社員か自営業か)でベースの金額を知る
- 子供が18歳になるまでの期間限定であることを理解する
- 住宅ローン(団信)の有無で必要額を調整する
この3点を確認すれば、保険の営業担当者に言われるがまま高額な保険に入ることはなくなります。漠然とした不安にお金を払うのではなく、公的保障で足りない「毎月あと5万円」「大学費用の300万円」といった具体的な不足分に対して、賢く保険を利用してください。
次は、この遺族年金を踏まえた上で、実際にどのような計算で民間保険の金額を決めればよいのか、「必要保障額」の具体的な算出方法について考えていきましょう。
我が家の死亡保障、足りていますか?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
死亡保障について理解が深まる一方で、
「では、我が家の場合はいくら必要なのだろう?」
と感じた方も多いのではないでしょうか。
死亡保障は、人それぞれ家族構成・収入・住まいによって大きく変わります。
平均額や他人の事例を当てはめるだけでは、
保障が足りなかったり、逆に保険料を払いすぎてしまう原因になります。
そこで次の記事では、
子育て世帯が自宅で・無料でできる「死亡保障セルフチェック」
の具体的な手順を、専門知識がなくても分かるようにまとめています。
営業を受けたり、保険を勧められることはありません。
まずは現状を整理するための参考資料として、
一度目を通してみてください。




