「万が一、夫(または妻)に先立たれてしまったら、来月からの生活費はどうしよう…」
子育て世帯にとって、大黒柱の死亡リスクは単なる悲しみだけでなく、経済的な生活基盤を一瞬にして失うかもしれないという大きな不安を伴います。特に子供がまだ小さいうちは、教育費もこれから本格的にかかってくる時期。貯金だけでカバーできるご家庭は、そう多くはありません。
そんな時に頼りになるのが、死亡保険です。しかし、数千万円という大金を一度に受け取る一般的な「定期保険」では、「計画的に取り崩して生活費に充てる」という管理が難しく、いつ底をつくか不安になりがちです。
そこでおすすめしたいのが、今回解説する「収入保障保険」です。
収入保障保険は、万が一の時に、まるで今まで通りお給料が入ってくるかのように「毎月定額」を受け取れる保険です。残された家族が家計管理に頭を悩ませることなく、生活水準を維持しやすい仕組みになっています。
しかし、加入を検討する際に一番悩むのが「月額いくらに設定すればいいの?」「期間はいつまでにすればいいの?」という点ではないでしょうか。
「今の生活費が月30万円だから、保険でも月30万円もらえるようにしなきゃ」と考えてしまうと、保険料は跳ね上がり、今の家計を圧迫してしまいます。
実は、今の生活費全額を保険で備える必要はありません。日本には「遺族年金」という手厚い公的保障があるからです。
この記事では、収入保障保険の仕組みを簡単におさらいしつつ、公的保障や今の家計状況を踏まえた「無駄のない設定金額と期間の決め方」を、専門用語を使わずに分かりやすく解説します。あなたのご家庭にぴったりの「安心のサイズ」を一緒に見つけていきましょう。
なぜ「収入保障保険」が生活費のカバーに向いているのか
数ある生命保険の中で、なぜ子育て世帯の生活費カバーには「収入保障保険」が最強の選択肢と言われるのでしょうか。それは、この保険が持つ「受け取り方」と「保障の形」が、子育て世帯のリアルな事情にあまりにも合理的だからです。
お給料のように毎月受け取れる仕組み
突然ですが、もし明日銀行口座に「3000万円」が振り込まれたとして、それを今後20年間にわたって、毎月少しずつ計画的に使い続ける自信はありますか?
一般的な「定期保険」や「終身保険」は、死亡時に数千万円というまとまったお金(死亡保険金)が一括で支払われます。もちろん、住宅ローンの返済や借金の清算など、まとまったお金が必要な場合には非常に有効です。
しかし、日々の食費や光熱費、子供の習い事代といった「生活費」として使う場合、一括受取にはリスクがあります。
- 手元に大金がある安心感から、つい財布の紐が緩んでしまう
- 親戚や知人から借金を頼まれるなどのトラブルに巻き込まれやすい
- 投資などで増やそうとして失敗し、資金を失うリスクがある
- 残された配偶者がお金の管理(取り崩し計画)に精神的な負担を感じる
収入保障保険は、こうした不安を解消してくれます。万が一の時も、これまで通り「毎月15万円」といった決まった金額が、決まった日に口座に振り込まれます。
これなら、これまで通りの感覚で家計をやりくりすれば良いだけです。「今月はこれだけ使える」というペースメーカーになってくれるため、生活水準を急激に落とすことなく、また資金が早々に枯渇する心配もなく、安心して生活を送ることができます。
時間の経過とともに「必要保障額」は減っていく
もう一つ、収入保障保険が合理的である最大の理由は、その「形」にあります。
あなたが「万が一の時に家族に残したいお金」の総額は、時間の経過とともにどう変化するでしょうか?
例えば、お子さんが0歳の時と、20歳の時を比べてみてください。
0歳の時に万が一のことがあれば、そこから22年間分の生活費と教育費が必要です。総額にすれば数千万円になるでしょう。
しかし、お子さんが20歳になっていれば、あと2年分程度の学費と生活費があれば、ひとまずは安心ですよね。
つまり、「家族のために必要な保障額」は、今日が一番高く、時間が経つにつれて徐々に減っていくものなのです。
収入保障保険は、この「右肩下がりに減っていく必要保障額」に合わせて設計されています。契約当初に万が一があれば、受取期間が長いため総額は多くなり、契約満了間近であれば、受取期間が短いため総額は少なくなります。
これを図にすると、三角形の形になります。一方で、いつ亡くなっても同じ3000万円を受け取れる定期保険は、四角形の形をしています。
四角形の保険(定期保険)は、子供が成長した後も過剰な保障を持ち続けることになるため、その分保険料が割高になります。対して、三角形の保険(収入保障保険)は、無駄な部分を削ぎ落としているため、同じ「安心」を確保するのに、保険料を圧倒的に安く抑えることができるのです。
「掛け捨てはもったいない」と感じる方こそ、この無駄のない合理的な仕組みを知っていただきたいと思います。
【月額の決め方】今の生活費をそのまま設定してはいけない
では、具体的に「月額いくら」に設定すれば良いのでしょうか。
ここでやってはいけないのが、「今の手取り給与が35万円だから、保険金額も月35万円にする」という決め方です。
これをやってしまうと、明らかに「保障の持ちすぎ」になります。保険料が高くなりすぎて、今の生活が苦しくなってしまっては本末転倒です。
賢い月額設定の計算式は以下の通りです。
設定する月額 =
(今の生活費 - なくなる支出) - (遺族年金 + 配偶者の収入)
つまり、生活費すべてを保険で賄うのではなく、「公的保障や自分の稼ぎでは足りない穴埋め部分」だけを保険で補うという考え方です。順を追って見ていきましょう。
まずは国の保障「遺族年金」を確認する
日本に住んでいる私たちは、すでに公的な保険に入っています。それが「遺族年金」です。大黒柱に万が一のことがあった場合、国から残された家族に年金が支給されます。しかも、この遺族年金は非課税です。
受け取れる金額は、亡くなった方の職業(加入している年金制度)と、家族構成によって大きく異なります。
● 会社員・公務員の方(遺族厚生年金 + 遺族基礎年金)
会社員の方は保障が手厚いです。18歳未満の子供がいる場合、「遺族基礎年金」に加えて、給与額に応じた「遺族厚生年金」が上乗せされます。
平均的な年収の会社員家庭で、子供が2人いる場合、月額で約13万円〜16万円程度が支給されるケースが多いです(※年収や加入期間によります)。
● 自営業・フリーランスの方(遺族基礎年金のみ)
国民年金のみに加入している自営業の方は、「遺族基礎年金」のみとなります。
子供がいる場合、月額で約10万円〜12万円程度(子供の人数による)です。会社員に比べると保障が薄くなるため、その分、民間保険での手厚い準備が必要になります。
まずは「ねんきん定期便」や、日本年金機構のサイトなどで、ご自身の家庭の場合いくらもらえるのか、概算を把握することから始めましょう。
「今の生活費」から「遺族年金 + 配偶者の収入」を引く
次に、必要な生活費の計算です。
万が一の時、今の生活費がそのまま全額必要になるわけではありません。大黒柱がいなくなれば、その分の食費や被服費、お小遣い、スマホ代などはかからなくなります。これを「なくなる支出」として差し引きます。
そして、最も大きなポイントが「住居費(住宅ローン)」です。
もし持ち家で、住宅ローンを組んでいて「団体信用生命保険(団信)」に加入している場合、名義人が亡くなるとローンの残債はゼロになります。つまり、これからの家賃や住宅ローン返済は不要になるということです。
今の生活費の中に住居費が10万円含まれているなら、万が一の後の生活費は、そこから10万円引いた金額で計算できます。これは非常に大きな要素です(※賃貸の場合は家賃がかかり続けるので、保障を手厚くする必要があります)。
No13: 営業トークに惑わされない(団信を考慮した設計の重要性)
こうして算出した「万が一の後の生活費」から、「遺族年金」と「残された配偶者の収入(パート代や給与)」を引いてみてください。
- 今の生活費:30万円
- なくなる支出(夫の小遣い等):▲3万円
- なくなる住居費(団信あり):▲10万円
- 万が一の後の必要生活費:17万円
ここへ収入を当てはめます。
- 遺族年金(会社員・子2人想定):14万円
- 妻のパート収入:8万円
- 合計収入:22万円
このケースでは、収入(22万円)が必要生活費(17万円)を上回っています。つまり、理論上は高額な死亡保障は不要ということになります。
もちろん、これはあくまで簡易シミュレーションです。「子供の大学費用は別に貯めたい」「妻が働き続けられるか不安」といった要素を加味して、月5万円〜10万円程度の収入保障保険を上乗せしておけば、より盤石でしょう。
このように引き算をしていくと、実際に保険で備えるべき金額は「月10万円〜15万円」程度に収まるご家庭が多いのです。月30万円の保険に入る必要はありません。
【期間の決め方】いつまで保障があれば安心か
金額が決まったら、次は「いつまで受け取れるようにするか(保険期間)」を決めます。これも保険料に直結する重要な要素です。
「末子が独立するまで」が基本の目安
収入保障保険の目的は、主に「子供が自立するまでの生活費と教育費を守ること」です。したがって、期間設定は「一番下のお子さんが独立する年齢」に合わせるのが基本かつ合理的です。
一般的には、大学卒業を想定して「末子が22歳になる年」までとします。
例えば、現在末子が2歳なら、20年後まで。私が35歳で末子が0歳なら、私が57歳〜60歳になる頃まで、といった具合です。
多くの保険会社では、「55歳満了」「60歳満了」「65歳満了」といった年齢区切りや、「20年」「25年」といった年数区切りで設定できます。
「心配だからとりあえず長めに70歳まで」としてしまうと、その期間分、保険料は高くなります。子供が独立した後は、配偶者自身の老後資金の問題にシフトするため、死亡保険で備えるよりも、iDeCoやNISAなどを活用した資産形成で備える方が効率的です。
「60歳・65歳満了」を選ぶべきケースとは
基本は「末子の独立」ですが、以下のようなケースでは、少し長めに「60歳満了」や「65歳満了」を選ぶことを検討しても良いでしょう。
- 配偶者が専業主婦(夫)で、今後も働くことが難しい場合
子供が独立した後、配偶者が自分の老齢年金を受け取れる65歳になるまでの「空白期間」の生活費が心配な場合です。 - 年の差婚で、子供が独立する頃には配偶者が高齢である場合
再就職が難しく、収入確保が困難なことが予想されるケースです。 - 自営業の方
遺族厚生年金がないため、配偶者の老齢年金も少なめになる傾向があります。少し長めに保障を持っておくことで、老後資金の足しにすることができます。
ただし、期間を延ばせば延ばすほど保険料は上がります。「安心」と「コスト」のバランスを見ながら、家計に無理のない範囲で設定することが大切です。
定期保険と比較したメリット・デメリット
ここで改めて、よく比較される「定期保険(四角い保障)」との違いを整理しておきましょう。
メリット:保険料を抑えて大きな保障を持てる
最大のメリットは、やはりコストパフォーマンスの良さです。
同じ「万が一の時に月15万円の生活費を確保したい」という目的でも、定期保険で「3000万円」を一括で用意しようとすると、保険料はかなり高額になります。
収入保障保険なら、必要な総額が時間とともに減っていく仕組みのおかげで、割安な保険料で加入できます。「タバコを吸わない」「健康状態が良い(BMIや血圧が基準値内)」などの条件を満たせば、さらに割引がきく商品(非喫煙優良体割引など)も多く、健康なパパ・ママには特におすすめです。
浮いた保険料を、つみたてNISAなどの貯蓄に回すことで、「守り」と「攻め」の両方をバランスよく行うことができます。
デメリット:受取総額は徐々に減っていく
一方で、仕組みを正しく理解していないとデメリットに感じる点もあります。
それは、「長生きすればするほど、受け取れる保険金の総額は減っていく」という点です。
例えば「60歳満了」の契約で、30歳で亡くなった場合は残り30年分の保険金を受け取れますが、59歳で亡くなった場合は、残り1年分しか受け取れません。
「えっ、それじゃあ59歳で亡くなったら損じゃない?」と思われるかもしれません。
しかし、思い出してください。59歳の時点では、すでにお子さんは独立しており、高額な教育費や生活費の保障は不要になっているはずです。その時期に必要なのは、葬儀代や整理資金程度の少額です。
多くの収入保障保険には「最低支払保証期間(2年や5年など)」がついているため、満了直前になくなっても、最低2年分や5年分は受け取れるようになっています。葬儀代程度はそこでカバーできると考えれば、合理的な設計と言えます。
加入前に知っておくべき注意点(免責・条件)
最後に、契約前に必ず知っておいてほしい注意点をお伝えします。「いざという時に出なかった!」とならないために重要です。
保険金が支払われないケース(免責事項)
どの保険にも共通しますが、保険金が支払われない「免責事項」があります。
- 責任開始期前の病気や事故
契約が有効になる前に生じていた原因による死亡は対象外となることがあります。 - 告知義務違反
持病や過去の病歴を隠して加入し、それが発覚した場合、契約が解除され保険金が支払われません。正直に告知することが、家族を守る第一歩です。 - 自殺免責期間
多くの保険会社では、加入から1年〜3年以内の自殺については保険金を支払わないとしています。 - 重大な過失や犯罪行為
契約者や受取人の故意による死亡などは当然支払われません。
特に「告知」は重要です。「健康診断でちょっと指摘されたけど、病院に行ってないから書かなくていいや」という自己判断は危険です。ありのままを申告しましょう。
「働けなくなった時」の保障ではない
名前が「収入保障」なので誤解されやすいのですが、この保険は基本的に「死亡・高度障害状態」になった時に支払われるものです。
「病気で入院して働けない」「うつ病で休職した」といった、生存中の就業不能状態をカバーするものではありません(※特約をつければカバーできる商品もありますが、基本契約とは別です)。
働けなくなった時の収入減に備えるには、「就業不能保険」という別のジャンルの保険があります。「収入保障保険に入っているから、働けなくなっても大丈夫」と思い込まないように注意してください。あくまで、収入保障保険は「死亡保険」の進化系なのです。
まとめ
収入保障保険は、子育て世帯にとって非常に合理的で、家計に優しい「守り」の要です。
大切なのは、営業担当者に言われるがまま「なんとなく月10万円」「とりあえず65歳まで」と決めるのではなく、ご自身の家庭の状況に合わせて計算することです。
ポイントのおさらい
- 今の生活費全額を備える必要はない。
- 「遺族年金」と「団信(住居費免除)」の効果を計算に入れる。
- 期間は「末子が独立するまで」が基本。
- 浮いた保険料は、将来のための貯蓄や投資に回す。
「自分の家の場合、遺族年金はいくらもらえるんだろう?」「団信の内容を確認したいけど書類がどこにあるか…」といった確認作業は少し面倒かもしれません。しかし、ここをしっかり把握することで、無駄な保険料を何百万円も節約できる可能性があります。
「計算が複雑で自信がない」「第三者の視点でチェックしてほしい」という場合は、一度ファイナンシャルプランナーなどの専門家にシミュレーションしてもらうのも賢い方法です。あなたの家族に最適な「安心のサイズ」を見つけて、賢く備えましょう。


