もしもの時を考えると不安になり、今の収入と同じ額を保険でカバーしようとしていませんか?家族を守りたいという責任感が強い方ほど、万が一の際に今の生活レベルを落とさないよう、手厚い保障を準備しようと考えるものです。しかし、その優しさが結果として家計を圧迫し、現在の生活を苦しくしてしまっては本末転倒です。
実は、家族の誰かが亡くなると世帯の収入は確かに減りますが、同時に「支出」も確実に減ります。大黒柱がいなくなるということは、その人が生活するために使っていたお金がかからなくなることを意味するからです。
特に住宅ローンを組んでいる家庭や、個人の趣味・嗜好にお金がかかっている場合、その変化は顕著です。死亡後に変わる家計の収支バランスを正しく理解することで、本当に必要な保険金額は驚くほど抑えられることがあります。この記事では、親が亡くなった後に具体的にどのお金が減り、どのお金が増えるのかを整理し、それに基づいた合理的な保障設計の考え方を解説します。
親が亡くなった後に「なくなる支出・減る支出」
保険金額を決める際、多くの人が「今の生活費が毎月30万円だから、遺族にも毎月30万円残さなければならない」と考えがちです。しかし、この計算は正しくありません。家族が一人減れば、当然ながらその分の生活コストはかからなくなるからです。まずは、具体的にどのような支出がなくなるのかを見ていきましょう。
故人の個人的な支出(食費・被服費・スマホ代・小遣い)
最もわかりやすく減少するのは、亡くなった本人に直接かかっていた個人的な支出です。これらは本人が不在となれば、翌日から即座にゼロになります。
たとえば、毎月のお小遣いが3万円だった場合、それだけで年間36万円の支出減となります。さらに、スマートフォンや通信費、理美容代、被服費、趣味にかかる費用、会社への交通費や交際費なども不要になります。これらを細かく積み上げていくと、月額で5万円から10万円近くになるご家庭も少なくありません。
また、食費や水道光熱費といった「家族共有の生活費」も減少します。大人が一人減るわけですから、食費は単純計算でも2〜3割程度は減るでしょう。お風呂やシャワーの回数、洗濯の量も減るため、水道代やガス代、電気代も緩やかに下がります。このように、生活費全体が今のまま継続するわけではないという点を、まずはしっかりと認識してください。
住宅ローン(団体信用生命保険の効果)
持ち家に住んでいる子育て世帯にとって、最も大きな支出削減要因となるのが「住居費」です。住宅ローンを組む際、ほとんどの方が「団体信用生命保険(団信)」に加入しています。これは、契約者が亡くなった場合や高度障害状態になった場合に、保険会社がローンの残債を銀行に一括返済してくれる仕組みです。
つまり、万が一のことが起きたその瞬間から、毎月の住宅ローン返済額は「0円」になります。もし現在、毎月10万円や12万円のローンを支払っているなら、その固定費がまるごと浮くことになります。これは家計にとって極めて大きなインパクトです。
賃貸住宅の場合は、世帯主が亡くなっても家賃の支払いは続きますが、持ち家(団信あり)の場合は住居費の負担が激減します。そのため、持ち家世帯と賃貸世帯では、必要な死亡保障額に数千万円単位の差が出ることが珍しくありません。ここを見落として「家賃分も含めた生活費」を保障額に設定してしまうと、過剰な保険料を払い続けることになります。
故人にかかっていた保険料や将来の貯蓄分
意外と忘れがちなのが、亡くなった本人のために支払っていた「保険料」や「将来のための貯蓄」です。本人が亡くなれば、その人が加入していた医療保険やがん保険、個人年金保険などの保険料を支払う必要はなくなります。
さらに、老後資金として積み立てていた貯蓄の必要性も変わります。夫婦二人分の老後資金を貯めるために毎月5万円貯金していたとしても、遺された配偶者一人分の老後資金であれば、目標額は半分程度で済むかもしれません。教育費の積立は継続する必要がありますが、「夫婦二人の老後のため」の積立負担は軽くなります。
このように、「出ていくお金」が多方面で減少することを加味せずに保障額を計算すると、数百万円から一千万円以上も過大な保険に入ってしまう原因となります。
逆に「残る支出・増える支出」とは?
支出が減る一方で、家族が生活を続けていくためには減らせない支出や、状況が変わったことで新たに発生する支出も存在します。これらを甘く見ていると、いざという時に資金ショートを起こしかねません。
変わらずかかる住居費(管理費・固定資産税・駐車場代)
先ほど、持ち家なら住宅ローンがなくなるとお伝えしましたが、住居費が完全にゼロになるわけではありません。マンションであれば毎月の管理費や修繕積立金はそのままかかりますし、戸建て・マンション問わず固定資産税の支払いは毎年発生します。車を所有していれば駐車場代も必要です。
これらの費用は、そこに住み続ける限り支払い義務があります。特にマンションの修繕積立金は年数が経つにつれて値上がりする傾向があるため、将来的なコストとして見込んでおく必要があります。ローン返済がなくなったからといって、住居費が全くかからないと勘違いしないよう注意が必要です。
子どもの教育費・養育費
親が亡くなっても、子どもの未来にかかるお金は減らすことができません。むしろ、ここを守るために保険に入ると言っても過言ではないでしょう。学校の授業料、塾や習い事の費用、部活動の遠征費、大学進学のための積立などは、当初の計画通り、あるいはそれ以上に確保しておく必要があります。
子どもがまだ小さい場合、これからかかる教育費の総額は1000万円以上になることもザラです。ここは「聖域」として、しっかりと計算に組み込むべき項目です。
遺された配偶者の就労に伴う新たな支出
世帯主が亡くなった後、遺された配偶者がこれまで以上に働く必要が出てくるケースは多いでしょう。専業主婦(夫)だった方が働きに出たり、パートタイムだった方がフルタイムに切り替えたりする場合、それに伴う新たな出費が発生します。
たとえば、小さな子どもがいる場合は保育園や学童保育の延長料金、場合によってはベビーシッターや家事代行サービスの利用料が必要になるかもしれません。また、仕事に出るための被服費や交通費、外食の増加なども考えられます。
さらに一時的な出費として、葬儀費用やお墓の購入・維持費、法要にかかる費用なども発生します。これらは生活費とは別に、ある程度のまとまった現金(予備資金)として手元に残るように設計しておくのが理想的です。
【シミュレーション】遺族の生活費は現在の「7割」が目安?
では、プラスマイナスを総合すると、遺族の生活費は具体的にどのくらいになるのでしょうか。ファイナンシャルプランナーが保障設計を行う際によく用いる目安があります。
一般的な目安「70%」の根拠
一般的に、世帯主が亡くなった後の遺族の生活費は、現在の生活費の「約70%」程度になると言われています。たとえば現在、家族4人で月30万円の生活費がかかっている場合、世帯主が亡くなった後の生活費の目安は月21万円程度と考えます。
この「70%」という数字は、先ほど述べた故人の個人的支出や食費の減少などを総合的に考慮した統計的な目安です。もちろん家庭ごとのライフスタイルによって変動しますが、今の生活レベルを維持するために「今の生活費の100%」が必要だというのは誤解であることがわかります。
団信ありの持ち家なら「5〜6割」になることも
さらに、持ち家で団信に加入しているご家庭の場合、この割合はもっと下がります。家計支出の中で大きな割合を占める住宅ローンが消滅するため、遺族が必要とする生活費は現在の「50%〜60%」程度で済むケースも珍しくありません。
一方で、賃貸住宅にお住まいの場合は家賃の支払いが継続するため、70%程度の生活費がかかり続けると見積もる方が安全です。また、子どもが成長して食費や教育費が増える時期と重なれば、70%より多くなる可能性もあります。重要なのは、一般論を鵜呑みにせず「我が家の場合は住居費がどうなるか」を起点に考えることです。
不足分=「出ていくお金」−「入ってくるお金(遺族年金)」
必要な生活費の目安がついたら、次はそのお金をどうやって準備するかを考えます。ここでも多くの人が間違いを犯します。それは「必要な生活費の全額を保険で賄おうとする」ことです。
まずは公的保障(遺族年金)を計算に入れる
日本は国民皆保険の国であり、公的な保障制度が非常に充実しています。世帯主が亡くなった場合、遺された家族には国から「遺族年金」が支給されます。
会社員や公務員の方が亡くなった場合は「遺族基礎年金」に加えて「遺族厚生年金」が支給され、子どもが18歳になる年度末までは手厚い給付が受けられます。自営業の方の場合は「遺族基礎年金」のみとなりますが、それでも月額10万円以上の支給になるケースが多いです(子どもの人数によります)。
たとえば、遺族の必要生活費が月20万円だと仮定しましょう。そこで遺族年金として月14万円が国から支給されるなら、自分たちで準備しなければならない不足分は、月6万円だけで済みます。月20万円すべてを保険で準備する必要は全くありません。
民間の保険で埋めるのは「どうしても足りない分」だけ
生命保険の役割は、あくまで公的保障(遺族年金)や遺族の就労収入、これまでの貯蓄で足りない部分を補う「最後のピース」です。
計算式は以下のようになります。
- 【必要保障額】=【遺族の生活費】−【遺族年金 + 配偶者の収入 + 既存の貯蓄】
この引き算をせず、単に「不安だから3000万円の保険に入っておこう」と決めてしまうと、本来必要のない保障に毎月高い保険料を支払うことになります。「減る支出」と「入ってくるお金」の両方を正しく把握することが、保険料の無駄を省く最大の近道です。
注意点・よくある誤解
保障額を計算する際によくある落とし穴について、最後に触れておきます。
「今の年収」をそのまま保障額にしてはいけない
保険の営業担当者から「年収の10倍の保障を持ちましょう」などと提案されることがありますが、これには根拠がありません。年収には税金や社会保険料が含まれていますし、そもそも年収全額を生活費に使っているわけではないはずです。
保障額を決めるベースはあくまで「残された家族が生きていくために必要な生活費」です。年収が高くても生活費が低い家庭であれば保障は少なくて済みますし、逆に年収がそれほど高くなくても教育費のかかる私立進学を予定しているなら手厚い保障が必要になります。「年収」ではなく「支出」に目を向けましょう。
時間の経過とともに必要保障額は減っていく
もう一つの重要な視点は「時間の経過」です。子どもが0歳の時に必要な保障額と、子どもが15歳になった時に必要な保障額はまったく違います。子どもが成長すればするほど、独立までの期間は短くなり、これからかかる教育費や生活費の総額は年々減っていきます。
そのため、加入当初から満期までずっと同じ保障額が続く「四角形の保険(定期保険)」よりも、時間の経過とともに保障額がなだらかに減っていく「三角形の保険(収入保障保険)」の方が、子育て世帯の理にかなっています。無駄な保障を持たず、保険料を安く抑えることができるため、非常に合理的です。
まとめ
親に万が一のことがあった場合、収入が途絶えることばかりに目が向きがちですが、同時に「支出も減る」という事実は意外と見落とされています。特に団信加入の持ち家世帯であれば、住居費という最大の固定費がなくなるため、必要保障額は皆さんが想像しているよりもずっと少なくて済む場合が多いのです。
正しい保障設計のステップは以下の通りです。
- 遺族の生活費をシミュレーションする(現状の7割程度、団信ありなら5〜6割を目安に)
- 国からもらえる遺族年金の額を調べる
- 配偶者の今後の収入見込みを確認する
- 上記で足りない「不足分」だけを民間の保険でカバーする
「安心料」として高額な保険料を払い続け、日々の生活が苦しくなってしまっては本末転倒です。浮いた保険料を現在の教育費や家族の思い出作りに使うことも、立派な家族へのプレゼントです。
まずは我が家の収支が死亡後にどう変化するか、一度冷静にシミュレーションしてみてください。自分たちだけで計算するのが難しい場合は、ネット上の無料診断ツールを使ったり、中立的な立場のアドバイザーに相談したりして、適正な「不足額」を把握することから始めましょう。


