子どもが高校生や大学生になると、家計における教育費の負担はいよいよピークを迎えます。毎月の授業料や塾代、あるいは大学の入学金や仕送りなど、目に見えてお金が出ていく時期ですから、「もし今、大黒柱に万が一のことがあったら…」と不安になり、手厚い死亡保障を維持したくなる気持ちは痛いほどよくわかります。
しかし、実は死亡保障の設計という観点から見ると、この時期は「保障の減らし時」における最大のチャンスでもあります。なぜなら、お子さんが独立するまでの「親としての経済的責任期間」は、残り数年にまで短くなっているからです。生まれたばかりの赤ちゃんがいる家庭と、もうすぐ社会に出る大学生がいる家庭では、必要な保障額はまったく異なります。
多くのご家庭で、お子さんが小さい頃に加入した高額な死亡保険がそのままになっていたり、更新によって保険料が跳ね上がったりしているケースが見受けられます。教育費がかさむ今だからこそ、保険料という固定費の無駄を極限まで削ぎ落とし、本当に必要な「あと数年分」の保障に切り替えることが家計防衛の鍵となります。
この記事では、子どもが高校・大学生の時期特有の公的保障のルール(いわゆる「18歳の壁」)や、ゴールを見据えた合理的な保障設計の考え方について、詳しく解説していきます。
高校・大学生のいる家庭は「保障の減らし時」
保険の見直し相談を受けていると、お子さんが高校生や大学生になっても、3,000万円や5,000万円といった高額な死亡保障を継続されているケースによく遭遇します。「これから大学でお金がかかるから、保障を減らすのは怖い」とおっしゃる方が多いのですが、冷静に計算してみると、実はそこまで大きな保障額は必要ないことがほとんどです。
「必要な期間」は残り数年しかない事実
死亡保障の金額を決めるとき、最も重要なのは「いつまで守る必要があるか」という期間の視点です。お子さんが0歳のときであれば、大学卒業までの約22年間分の生活費と教育費をカバーする必要がありました。これだけの長期間にわたる生活費を積み上げれば、確かに数千万円単位の保障が必要だったはずです。
しかし、お子さんが現在高校2年生(17歳)だとしたらどうでしょうか。大学卒業(22歳)までの期間は、残りわずか5年です。親が経済的に支えなければならない期間は、もう22年ではなく5年しか残っていないのです。
仮に、お子さんが大学を卒業して社会人になれば、親としての扶養義務はひとまず完了します。それ以降は、配偶者が自身の生活を維持できるだけの資金があれば十分ということになります。つまり、現在高校生や大学生のお子さんがいるご家庭は、マラソンで言えばゴールテープが見えている状態です。これまでの長い距離を走るために背負っていた重いリュック(高額な保障)は、もう下ろしても良い時期に来ています。
三角形の法則(時間の経過と共に必要額は減る)
生命保険の基本的な考え方に「三角形の法則」というものがあります。これは、時間の経過とともに必要な死亡保障額(必要保障額)は右肩下がりに減っていくという原則です。
例えば、お子さんが生まれた瞬間の必要保障額が最大(三角形の底辺)だとすると、お子さんが成長するにつれて、将来支払うべき教育費や生活費はすでに支払った分だけ減っていきます。当然、未来のために準備しておかなければならない保障額も、年々少なくなっていくわけです。
- お子さんが0歳の時:これから22年分の生活費と教育費が必要(必要額:最大)
- お子さんが10歳の時:残り12年分の生活費と教育費が必要(必要額:中)
- お子さんが18歳の時:残り4年分の生活費と教育費が必要(必要額:小)
この三角形の形をイメージできれば、加入当初と同じ保険金額(四角形の保障)を維持し続けることが、いかに無駄であるかがわかります。特に高校・大学時代はこの三角形の先端部分に差し掛かっており、必要保障額は急激に小さくなります。
この時期に必要なのは、過去の不安に基づいて設定した「大きな四角形の保険」ではなく、ゴールまでの残距離に合わせた「小さな三角形の保険」です。ここを理解するだけで、毎月の保険料を大幅に節約できる可能性が高まります。
要注意!公的保障にある「18歳の壁」とは
必要保障額を計算するうえで、絶対に避けて通れないのが公的保障(遺族年金)の理解です。日本の公的保障は非常に手厚いのですが、子どもが成長した段階で支給ルールが大きく変わるポイントがあります。それが「18歳の壁」です。
これを知らずに「遺族年金がずっともらえるから大丈夫」と勘違いして保障を削りすぎると、大学在学中に家計が破綻するリスクがあります。ここでは、この時期特有の公的保障の仕組みについて解説します。
遺族基礎年金が終了するタイミング(子が18歳到達年度末)
万が一、一家の大黒柱が亡くなった場合に支給される「遺族基礎年金」。これは国民年金から支給される部分で、子育て世帯にとっては非常に大きな支えとなります。年間約100万円(子の加算含む・子供1人の場合)が支給されますが、この受給資格には厳格な年齢制限があります。
遺族基礎年金が支給される「子」の要件は、原則として「18歳に到達した年度の3月31日まで」と定められています。つまり、お子さんが高校を卒業するタイミングで、遺族基礎年金の支給はスパッと終了してしまうのです。
ここで問題になるのが、お子さんが大学や専門学校に進学する場合です。大学進学率は年々上昇していますが、公的年金の制度上は「高校卒業で大人の扱い」となります。そのため、最もお金がかかる大学4年間の在学中に、頼りにしていた遺族基礎年金(年間約100万円)がゼロになるという事態が発生します。
この「高校卒業と同時に年金が減る」という事実を、必要保障額の計算に織り込んでおくことが極めて重要です。大学時代の学費や生活費をカバーするためには、公的保障が薄くなる分を、民間保険や貯蓄で補う必要があります。
中高齢寡婦加算への切り替わりと受給要件
会社員や公務員の方が亡くなった場合、遺族基礎年金に上乗せして「遺族厚生年金」が支給されます。遺族厚生年金には「18歳の壁」による終了はありません(配偶者が受け取る場合、一生涯続くのが基本です)。しかし、遺族基礎年金が終わってしまうことで、家計に入ってくる年金総額はガクンと減ってしまいます。
この激変を緩和するために用意されているのが「中高齢寡婦加算」という制度です。これは、夫が亡くなった時に40歳以上65歳未満の妻が、子が18歳到達年度末を迎えて遺族基礎年金を受け取れなくなった後に、自身の老齢基礎年金が始まる65歳まで受け取れる加算給付です。
中高齢寡婦加算の額は、年額約58万円(令和5年度基準)です。遺族基礎年金(約100万円+子の加算)に比べると金額は少なくなりますが、ゼロになるわけではありません。
あなたの家庭の状況に合わせて整理すると、以下のようになります。
- 子が高校卒業まで:遺族基礎年金 + 遺族厚生年金(手厚い)
- 子が大学在学中〜妻65歳まで:中高齢寡婦加算 + 遺族厚生年金(少し減る)
- 妻65歳以降:妻自身の老齢基礎年金 + 遺族厚生年金
このように、お子さんが高校を卒業するタイミングで、公的保障の受け取り額が一段階下がることをシミュレーションに組み込む必要があります。「ずっと同じ金額がもらえる」という前提で計算してしまうと、大学時代の資金繰りがショートしてしまうので注意しましょう。
具体的な必要保障額の計算シミュレーション
理論的な背景がわかったところで、実際に「今、いくらの死亡保障が必要なのか」を計算してみましょう。高校・大学生のお子さんがいるご家庭向けの簡易シミュレーション方法をお伝えします。電卓を用意して、ざっくりと数字を出してみてください。
学費の残額(大学授業料・仕送り)を正確に出す
まず、最も大きな出費である「これからの教育費」を洗い出します。 お子さんが現在どのような状況かによって、必要な金額は大きく異なります。
例:私立理系大学を目指す高校3年生がいる場合
入学金や4年間の授業料、施設設備費などを合わせると、平均で約550万円〜600万円程度かかります。もし自宅外通学(一人暮らし)をするなら、仕送りとして月10万円×4年間=480万円が別途必要になります。合計で約1,000万円強。これが「絶対に確保しなければならない教育資金」です。
例:すでに大学2年生(文系・自宅通学)の場合
残りの学費は2年分です。私立文系の年間授業料等が約100万円とすると、残り200万円程度。高校生の頃に比べれば、必要な保障額は劇的に減っているはずです。
すでに貯蓄で準備できている学資保険などがあれば、その分を差し引きます。「これから払わなければならない現金」がいくらなのかを明確にしましょう。
生活費の不足分(遺族年金・配偶者の収入との差額)
次に、遺された家族(配偶者とお子さん)が生活していくためのお金を計算します。 ここでは「末子が独立するまで」と「配偶者のその後の生活」を分けて考えますが、お子さんがすでに大きいので、まずは独立までの数年間を重点的に見ます。
現在の生活費から、亡くなった大黒柱の小遣いや食費、被服費などを引いた金額が、遺族の生活費の目安(現在の約70%程度と言われています)です。
- 支出:(現在の生活費 × 0.7) × 独立までの年数
- 収入:(遺族年金 + 配偶者の手取り年収) × 独立までの年数
この「支出」から「収入」を引いた額が不足分です。 お子さんが高校・大学生の場合、配偶者の方もパートや正社員として働いているケースが多いでしょう。また、先ほど解説した通り、遺族年金は途中で減額される可能性があるため、少なめに見積もっておくのが安全です。
計算してみると、「あれ? 遺族年金と妻のパート収入があれば、生活費の不足分はほとんどないかもしれない」という結果になるご家庭も少なくありません。その場合、死亡保障で備えるべきは「教育費の残り」だけで良いという判断になります。
住宅ローンは「団信」で消えるため計算から除外
保障額の計算で忘れてはならないのが住居費です。持ち家で住宅ローンを組んでいる場合、団体信用生命保険(団信)に加入していることがほとんどです。名義人が亡くなれば住宅ローンの残債はゼロになり、以降のローン返済は不要になります。
つまり、遺された家族の生活費には「家賃・住宅ローン」を含める必要がありません。現在の家計支出の中で住居費が占める割合は大きいため、これがなくなるインパクトは絶大です。管理費や修繕積立金、固定資産税などの維持費だけを計算に入れておけば十分です。
賃貸にお住まいの場合は、今後も家賃がかかり続けるため、その分を保障額に上乗せする必要があります。この「持ち家か賃貸か」の違いは、必要保障額に数千万円単位の差を生むため、必ず考慮してください。
この時期によくある失敗と対策
子どもが大きくなったこの時期だからこそ陥りやすい、保険選びの失敗パターンがあります。長年加入していた保険の「罠」に気づくタイミングでもありますので、ご自身の契約内容と照らし合わせてみてください。
昔加入した「更新型」保険の保険料急増
お子さんが生まれた頃、あるいは結婚した当初に加入した生命保険が「定期付終身保険」などの更新型商品だった場合、ちょうどこの時期に更新のタイミングを迎えることがよくあります。
10年更新や15年更新のタイプでは、更新時の年齢(40代後半〜50代)に合わせて保険料が再計算されるため、月々の支払額が1.5倍〜2倍近くに跳ね上がることが珍しくありません。「教育費がかかるのに、保険料まで倍になるなんて!」と慌てる方が多いのですが、ここで言われるがままに更新するのは避けたいところです。
前述の通り、必要保障額は「三角形の法則」で減っています。保険料が上がるのに保障額をそのまま維持する必要はありません。更新のタイミングこそ、保障を大幅に減額(ダウンサイジング)するか、割安な「収入保障保険」などに切り替えて、保険料負担を抑えるべき絶好の機会です。
「念のため」で過大な保障額を維持してしまう
「子どもが大学院に行くかもしれない」「留学するかもしれない」「就職がうまくいかないかもしれない」…。親心として心配は尽きませんが、あらゆる可能性を「念のため」として死亡保障に上乗せしていくと、保険料は青天井になります。
保険はあくまで「万が一の時の最低限の生活と教育を守るもの」と割り切る視点が必要です。不確定な未来のイベントに対しては、掛け捨ての保険料を払って備えるのではなく、その分を貯蓄や投資に回して「使える現金」として手元に残しておく方が、生存時のリスクにも対応でき合理的です。
「不安だから保険に入る」のではなく、「計算上必要だから保険に入る」。このドライな判断が、家計の無駄を省きます。
貯蓄型保険にお金を回して手元の流動性を失う
もう一つの失敗例が、教育費の支払いで手元の現金が減っている不安から、「老後のためにもなるから」と勧められた貯蓄型保険(低解約返戻金型終身保険や外貨建て保険など)に追加加入してしまうケースです。
教育費のピーク時は、いつ想定外の出費があるかわかりません。そんな時に、解約すると元本割れしてしまう保険に資金を拘束されるのはリスクが高い行為です。死亡保障と貯蓄は明確に分け、この時期の死亡保障は「掛け捨て」でコストを最小限に抑えること。そして浮いたお金は、いつでも引き出せる流動性の高い状態で確保しておくか、NISAなどを活用した柔軟な運用に回すことを強く推奨します。
まとめ:ラストスパートは無駄を削ぎ落として賢く守る
子どもが高校・大学生になったご家庭は、子育ての最終コーナーを回ったところです。教育費という最後の大きな山を越えるために、家計は総力戦の状態でしょう。そんな時期だからこそ、役割を終えつつある「過大な死亡保障」にお金を払い続ける余裕はありません。
重要なポイントを振り返ります。
- 親の責任期間は残り数年。必要保障額は劇的に減っている。
- 「18歳の壁」による遺族基礎年金の終了と、大学在学中の資金ショートに注意する。
- 住宅ローンがあるなら団信を考慮し、住居費を除外して計算する。
- 更新型の保険料アップには付き合わず、保障を減らすか安い保険に乗り換える。
これらを踏まえて保障を見直せば、月々の保険料を数千円、場合によっては1万円以上節約できることも珍しくありません。その浮いたお金は、お子さんへの仕送りや、ご夫婦の老後資金、あるいは現在の生活を楽しむために使うことができます。
「昔入った保険だから安心」と思わず、ゴールが見えてきた「今の家族の形」にフィットするように、保障のサイズを調整してみてください。無駄な重りを下ろして、身軽にラストスパートを駆け抜けましょう。


